労働法は、工業化というイノベーションがもたらす過酷な波に対して人間がかけたブレーキだった。民主主義を生かす形で――。働き方改革で政府に提言もした労働法学者の水町勇一郎さんはそう語る。農業社会からの転換は、情報の格差と富の格差を拡大させる機会でもあったというのだ。では工業社会からデジタル社会への転換期に、労働者の人間性はどうなるのか。話を聞いた。
格差が生みだした、支配される側への「酷使」
狩猟社会から農耕社会へ、農耕社会から工業社会へ――。人類の歴史では、イノベーション(技術革新)による大転換が起きるたびに情報の格差と富の格差が生じてきました。新たな力を得て人々をコントロールする層と、支配されて酷使されながら働く層が生みだされてきたのです。
18世紀以降の産業革命を経た工業化の時代には、大量生産が広がる中で、多くの人々がそれまで持っていた熟練という価値を失い、工場で酷使される存在になっていきました。長ければ1日16時間も単純な反復作業が続き、休日もほとんどない困窮生活。まさに人間性を奪われる事態です。
どうすれば働く者の尊厳を取り戻せるのか。そのために人間が作り出したツールが労働法でした。
戦後日本にも残存する「滅私奉公」
長すぎる労働時間に規制をか…